障害のある子に遺産を「安全に残す」方法|遺言・家族信託・成年後見の違いと失敗しない選び方

障害のある子に遺産を残すときに一番大事なのは、「多く残すこと」よりも「安全に使える形で残すこと」です。
結論から言うと、失敗しない基本は①遺言で分け方を決める → ②財産の“管理役”を決める → ③必要なら信託や後見で仕組みにするという順番です。

この記事のゴール
遺言・家族信託・成年後見(任意後見/法定後見)の違いを整理し、
ご家庭に合う「安全な残し方」を選べるようにすることです。


目次


1. まず結論:安全に残すための「3点セット」

障害のある子に遺産を安全に残すには、次の3つをセットで考えるのが基本です。

  • ①分け方 遺言で「誰に・何を」渡すか決める
  • ②管理役 財産を管理し、必要な支払いをする人(または仕組み)を決める
  • ③運用の仕組み 信託や後見で「使い方」「監督」「止まらない仕組み」を作る

遺言だけで「分け方」は決められますが、“受け取った後の安全”まで自動で守ってくれるわけではありません
だからこそ、家族信託や成年後見で「守り方」も一緒に設計することが大切です。


2. 失敗が起きる理由:遺産は“渡した瞬間”に危険が増える

親の立場では「たくさん残してあげたい」と思う一方で、遺産は受け取った瞬間から次のリスクが増えます。

  • 詐欺・悪質商法の標的になりやすい
  • 浪費や衝動買いで目減りする
  • 兄弟姉妹・親族との誤解で揉める
  • 契約や手続きができず、必要な支払いが止まる

つまり「遺産を渡すこと」そのものがゴールではなく、
遺産を“必要なときに・必要なだけ・安全に使える”状態を作ることがゴールになります。


3. 遺言:できること/できないこと(特定遺贈・包括遺贈の注意)

遺言の役割はシンプルで、相続人同士の「分け方の迷い」を減らすことです。
特に障害のある子がいる場合、遺言がないと遺産分割協議が必要になり、話し合いが長期化しやすくなります。

遺言でできること

・誰に、どの財産を、どの割合で渡すか指定できる

・遺言執行者を指定できる(手続きを進める人)

・「障害のある子の生活のため」という想いを文章で残せる

遺言の限界(ここが落とし穴)

・受け取った後の使い方や管理の実務までは自動で守れない

・財産の種類が多い/不動産がある/負債があると運用が難しくなる

特定遺贈と包括遺贈の違い(超重要)

遺言でよく出てくるのが「特定遺贈」と「包括遺贈」です。
ざっくり言うと、特定=これ、包括=まとめてです。

  • 特定遺贈:例「預金口座Aの残高を長男に遺贈する」→ 目的の財産だけ渡す
  • 包括遺贈:例「財産の2分の1を長男に遺贈する」→ プラスの財産もマイナスの財産も“まとめて”対象になりやすい

「債務も一緒に遺贈されるの?」という疑問はとても大事です。
原則として、包括的に渡す指定だと、プラスの財産だけでなく負債もセットで引き継ぐ扱いになり得ます。
迷うときは、「何を渡したいか」を財産ごとに分けて指定できる特定遺贈が安全な場面が多いです。

遺言執行者は誰が判断する?

遺言執行者がいる場合、遺言の内容に沿って手続きを進めます。
ただし、遺言が曖昧だと「どう解釈するか」で揉めやすくなります。
遺言執行者が“自由に決める”ものではなく、遺言の文言・趣旨に基づいて進めるイメージです。
だからこそ、障害のある子を守る遺言では、文章を具体的にすることが重要です。


4. 家族信託:できること/できないこと(生活費の出し方まで設計)

家族信託は、遺言より一歩踏み込んで、「財産の管理と使い方」を仕組みにできる方法です。
障害のある子の親亡き後では、特に次の形が多くなります。

  • 委託者 親(財産を託す人)
  • 受託者 きょうだい・親族など(管理する人)
  • 受益者 障害のある子(利益を受ける人)

家族信託でできること

・生活費、医療費、住居費など「支払いのルール」を作れる

・不動産の管理や売却など、柔軟に動けるよう設計できる

・「誰がいつ引き継ぐか」も決められる(受託者の交代条項など)

家族信託の注意点

・身上保護(入院手続きや施設契約などの“生活面の代理”)は原則カバーしない

・契約設計が甘いと、使い方を巡って家族内で揉めやすい

・受託者の負担が重くなりやすいので「監督」や「報告」の仕組みが重要

家族信託は「自由度が高い」一方で、自由度が高いほど設計力が求められます。
“誰が”“何に”“いくらまで”“どういうときに”使えるかを、具体的な生活場面に合わせて決めるのがポイントです。


5. 成年後見:向いている人/向いていないと言われる理由

成年後見は、判断能力が不十分な人を法律的に支援する制度で、
大きく分けて任意後見法定後見があります。

任意後見(先に決める)

・本人がまだ判断できるうちに「将来の後見人」を契約で決める

・親が元気なうちに体制を整えられる

法定後見(あとで決まる)

・すでに判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に申立てて決める

・後見人は家庭裁判所が選任する(親族/専門職など)

「成年後見は障害者に向いていない?」と言われる理由

成年後見が合わないと言われる背景には、次のような事情があります。

  • 家庭裁判所の監督が入り、使い方が保守的になりやすい
  • 後見が始まると、原則としてやめにくい(長期化しやすい)
  • 専門職後見の場合、報酬(コスト)が継続的に発生する

ただし、これは「ダメ」という意味ではありません。
むしろ、詐欺や使い込みの予防、契約の代理が必要なケースでは、成年後見が強力に役立ちます。


6. 選び方:あなたの家庭はどれ?ケース別の最適解

選び方は「制度の優劣」ではなく、困りごとに合うかどうかです。

まずはこの質問で整理
(1)遺産を「どう分けたい」?(2)お金の管理は「誰がする」?(3)生活の契約は「誰が代わりにする」?

ケースA:争いを避けたい/兄弟姉妹がいる
  • 遺言:必須(分け方の迷いを減らす)
  • 家族信託:財産管理が必要なら検討
  • 成年後見:契約の代理が必要なら併用も検討
ケースB:多額の財産・不動産がある
  • 家族信託:不動産の管理・売却を想定して設計
  • 遺言:最終的な帰属・想いの整理に使う
  • 成年後見:生活面の代理が必要なときに補完
ケースC:詐欺や浪費が心配/金銭トラブルが起きやすい
  • 成年後見:法律的な防波堤になりやすい
  • 家族信託:支払いルールを固めて“渡し過ぎ”を防ぐ
  • 遺言:配分の根拠を残して揉めにくくする

7. よくある失敗と回避策(揉める・止まる・税で損する)

  • 失敗①:遺言だけで終わる
    → 回避策:受け取った後の管理役・支払い方法までセットで設計する
  • 失敗②:内容が曖昧で遺言執行者が動けない
    → 回避策:特定遺贈を中心に、財産ごとに具体的に書く
  • 失敗③:包括的に渡して“借金”まで引き継いでしまう
    → 回避策:負債が気になる場合は、包括指定を避け、財産の棚卸しを先にする
  • 失敗④:後見が必要と言われて慌てる
    → 回避策:元気なうちに任意後見や信託で“詰まる部分”を先に潰す

8. 今日からできる準備チェックリスト

  • 家族の関係者(きょうだい・親族・支援者)を紙に書き出す
  • 財産の棚卸し(預金・保険・不動産・負債)をざっくり整理する
  • 障害のある子の支出(生活費・医療費・住居費)を見える化する
  • 「管理役にできそうな人」と「できない理由」を整理する
  • 遺言で伝えたい想い(なぜこの分け方にするか)をメモする

最初から完璧に決める必要はありません。
“現状を整理して、相談できる状態にする”だけでも、大きな一歩になります。


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