相続の銀行手続きが止まる理由|障害のある相続人がいる場合の必要書類と進め方

相続の銀行手続きが止まる最大の理由は、「相続人全員の同意(署名・押印)が“有効に”成立しているか銀行が確認できない」からです。
特に、相続人の中に知的障害・精神障害などで判断能力(意思能力)に不安がある方がいると、銀行は後日のトラブルを避けるため、追加書類法的な代理人(後見等)を求めることが多くなります。

この記事では、初心者の方でも迷わないように、「なぜ止まるのか」→「必要書類」→「進め方(最短ルート)」の順で、実務目線でわかりやすく整理します。


目次


1. 結論:銀行手続きが止まる“3つの理由”

銀行の相続手続きが止まる理由は、ほぼ次の3つに集約されます。

  • 理由①:相続人が確定していない(戸籍が揃っていない)
    銀行は「誰が相続人か」を戸籍で確認します。戸籍が欠けると、そもそも受付が進みません。
  • 理由②:遺産の分け方が確定していない(合意書類が不十分)
    遺言がない(または遺言で指定が不十分)場合、遺産分割協議書などで分配先を確定させる必要があります。
  • 理由③:相続人の同意が“有効に”成立しているか不安(意思能力の問題)
    障害のある相続人がいると、銀行は「その署名・押印は本当に本人の理解に基づくのか」を慎重に見ます。ここで止まりやすいです。
ポイント
銀行は法律判断の機関ではありませんが、後から争われるリスクが少しでもあると、手続きを進めず「追加書類」「後見等の代理」を求める傾向があります。

2. 「障害がある=できない」ではない:銀行が見ているポイント

結論として、障害者手帳の有無や診断名だけで、相続手続きの可否は決まりません。
銀行が実務上重視するのは、その時点での判断能力(意思能力)です。

銀行が確認したいこと(実務の目線)

  • 本人が手続きの意味を理解しているか(相続、分け方、結果)
  • 意思が一貫しているか(説明のたびに結論が大きく変わらない)
  • 不正・乗っ取りの疑いがないか(第三者が誘導していないか)
  • 後で無効と争われないか(家族間で揉める火種がないか)

ここがクリアできると、本人が相続人として手続きに参加できる可能性は十分あります。
一方で、銀行側が少しでも不安を持つと「後見人が必要」「支店では判断できない」と言われ、止まりやすくなります。


3. よくある停止パターンと、銀行から言われる文言の意味

銀行で実際に言われがちなフレーズと、その意味を整理します。

  • 「相続人全員の署名押印が必要です」
    → 遺言がなく、分割協議で分けるケースに多いです。誰か一人でも署名できないと止まります。
  • 「ご本人確認が必要です(面談してください)」
    → 本人の意思確認をしたい、代理やなりすましの疑いを排除したい、という意味です。
  • 「判断が難しいので、成年後見人の選任をご検討ください」
    → その支店では“安全に進められない”と判断したサインです。法的代理が整うまで保留になりがちです。
  • 「遺産分割協議書の内容が不足しています」
    → 口座ごとの分配が曖昧、押印の種類が合わない、記載不備など。銀行ごとに運用差があります。
  • 「弁護士・司法書士等にご相談ください」
    → 紛争・無効リスクがあると見て、銀行が判断を避けている状態です。

4. 必要書類まとめ(基本セット+追加で求められやすいもの)

銀行相続で必要な書類は、「基本セット」+「分け方セット」+「(必要なら)代理セット」で考えると分かりやすいです。

4-1. 基本セット(ほぼ必須)

  • 被相続人の戸籍一式(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人の戸籍(続柄確認用)
  • 相続人全員の本人確認書類(運転免許証等)
  • 銀行所定の相続手続依頼書(支店で入手/WebでDL)
  • 印鑑証明書(銀行の指定期限に注意)

4-2. 分け方セット(遺言があるかで変わる)

(A)遺言がある場合

  • 遺言書(公正証書/自筆証書など)
  • 自筆証書の場合:検認済証明書または法務局保管の証明書類
  • 遺言執行者がいる場合:遺言執行者の就任を証する書類(遺言本文・選任審判等)

(B)遺言がない(遺産分割協議)場合

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名押印)
  • 相続人全員の印鑑証明書

4-3. 代理セット(障害のある相続人の意思能力が問題になるとき)

  • 成年後見登記事項証明書(後見人がいる場合)
  • 家庭裁判所の審判書・確定証明(保佐・補助等の場合)
  • 状況により:医師の診断書・意見書(意思確認の補強として求められることあり)
注意
必要書類は銀行・支店・ケースで差があります。
「この口座の相続に必要な書類一覧を紙でください」と最初に取り、担当者名と日付を控えると、後のやり取りがブレにくくなります。

5. 進め方の最短ルート:状況別フローチャート

最短で進めるコツは、「遺言の有無」×「本人の意思能力」で分岐させることです。

ルート①:遺言あり + 本人の意思能力に問題なし

  • 遺言書(+必要な証明)を揃える
  • 銀行所定書類を提出
  • 払い戻し/名義書換(証券)へ

このルートは比較的スムーズです。公正証書遺言だと進行が早い傾向があります。

ルート②:遺言なし(分割協議が必要)+ 本人が手続きに参加できる

  • 相続人確定(戸籍)
  • 財産の全体を把握(残高証明等)
  • 遺産分割協議書を作成(口座ごとの分配を明確に)
  • 銀行へ提出 → 払い戻し

本人の理解が不安な場合は、争いにくい形(説明記録・同席者・簡潔な内容)を意識します。

ルート③:遺言なし + 本人の意思能力が不安(銀行が止めている)

  • 止められている理由を明確化(支店の判断ポイントを確認)
  • 代理の枠組み(後見・保佐・補助)を検討
  • 家庭裁判所の手続き → 代理人確保
  • 代理人の署名押印で銀行手続きへ

このルートは時間がかかりやすいので、期限がある手続き(放棄・準確定・相続税)が絡む場合は早めに動くのが重要です。


6. 成年後見が必要になりやすいケース/不要なケース

「後見を立てるべきか」は、家庭ごとに重みづけが変わります。目安として整理します。

6-1. 成年後見が必要になりやすいケース

  • 遺産分割協議が必要で、本人が内容を理解して同意できない
  • 本人が署名しても、後から無効主張のリスクが高い(家族関係が不安定など)
  • 相続後も、本人の財産管理(通帳・支払い・給付金管理)で継続的な支援が必要

6-2. 成年後見が不要になりやすいケース(ただし例外あり)

  • 遺言で分配先が明確で、分割協議が不要
  • 相続財産がシンプルで、本人が十分理解でき、銀行も意思確認をクリアしている
重要
成年後見は「相続手続きだけ」のために使うと、家庭の負担感が出ることがあります。
一方で、相続後の生活を含めて考えると、安心の土台になる家庭も多いです。
「相続」+「相続後の暮らし(お金の管理・住まい・支援者)」をセットで比較するのがおすすめです。

7. つまずきポイントTOP5(支店対応・署名・印鑑・残高証明など)

  • ① 支店ごとに運用が違う
    同じ銀行でも支店で求める書類が微妙に違うことがあります。最初に「必要書類一覧」を紙でもらいましょう。
  • ② 遺産分割協議書の書き方が銀行の期待とズレる
    「遺産の一部だけ」や「口座特定が曖昧」だと差し戻されがちです。
  • ③ 印鑑証明の期限
    “発行後3か月以内”など銀行ルールがあることがあります。取り直しが発生すると一気に遅れます。
  • ④ 残高証明・取引明細の取得が遅れる
    財産の全体像が見えないと分割協議が決まりません。早い段階で残高証明を取るのが鉄則です。
  • ⑤ 相続人の意思統一ができていない
    「一部だけ先に解約したい」などの希望がバラバラだと止まります。方針を最初に揃えましょう。

8. 今日からできるチェックリスト(30分/今週/今月)

今日やる(30分)

  • 遺言書の有無を確認(公正証書/自筆/法務局保管)
  • 銀行口座(支店・口座番号)を一覧化
  • 相続人候補を書き出す(配偶者・子・代襲など)

今週やる

  • 戸籍の取得を開始(出生~死亡まで)
  • 銀行に連絡し、必要書類一覧と手続きの流れを確認
  • 残高証明・取引明細の取得を相談

今月やる

  • 遺産分割協議が必要なら、協議書案を作成(口座ごとに明確化)
  • 意思能力に不安がある場合、後見等の選択肢を専門家と整理
  • 期限がある手続き(放棄・準確定・相続税)をチェック

9. よくある質問(Q&A)

Q1. 障害者手帳があると、必ず後見が必要ですか?

必ずではありません。ポイントはその時点の意思能力です。
ただし銀行は安全側に判断するため、状況により後見等を求められることがあります。

Q2. 銀行から「本人を連れてきてください」と言われました

本人の意思確認をしたい意図です。説明が通り、意思が一貫していれば進むこともあります。
不安がある場合は、事前に支店へ確認事項をまとめて伝えるとスムーズです。

Q3. 遺言があるのに止まります

自筆証書遺言の検認や、遺言内容の特定が曖昧、執行者不在などで止まることがあります。
遺言の形式と、銀行の必要書類を突き合わせて確認しましょう。

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