親の認知症で“親の財産”が動かせない|家族信託で施設費・生活費を確保した事例

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親の認知症で“親の財産”が動かせない|家族信託で施設費・生活費を確保した事例

親の認知症が進むと、家族が「親の預金から施設費を払いたい」と思っても、思うように動かせない場面が出てきます。
これは「家族が悪い」のではなく、本人(親)の財産は本人の意思でしか動かせないというルールがあるからです。

最初に結論(このケースの解決の考え方)
いま困っているのは「誰のお金を、誰が、どの根拠で動かすか」
親が“契約できるうち”なら、家族信託で「施設費・生活費の支払いルート」を先に作れる
ただし信託は万能ではない:親の状態・財産の種類・家族関係で向き不向きがある(成年後見が適切なことも)

※本記事はモデル事例です。金融機関や不動産の状況、家族関係、自治体の運用で手続きは変わります。

0. なぜ「親のお金」が動かせなくなるのか(現場のリアル)

認知症の親の財産が動かせない理由は、ざっくり言うと次の2つです。

  • 本人確認・意思確認ができないと、金融機関が手続きを止める(引出・解約・名義変更など)
  • 家族でも勝手に動かすと“使い込み”扱いになり得る(後で相続人間トラブルになりやすい)

実際に困るのは、施設入所や在宅介護の費用が増えるタイミング。支払いが止まると生活が止まるので、先に「支払いの根拠」を作る必要があります。

1. 解決事例:家族信託で“支払いルート”を作り施設費・生活費を確保

個人が特定されないよう調整したモデル事例です。結論は、“誰が払うか”を決めたのではなく、“払える仕組み”を作ったことでした。

状況

  • 親:認知症が進行。通帳・印鑑の管理が不安定で、意思確認が難しい場面が増えた
  • 家族:施設入所を検討するが、入所一時金・月額費用の支払いが心配
  • 財産:預金+不動産(売却や賃貸の可能性あり)
  • リスク:支払いを家族が立て替えると、後で「使い込み」疑いが出る恐れ

やったこと(家族信託)

  1. 信託の目的を明確化:「親の施設費・生活費を止めない」
  2. 受託者を決定:日常の支払いができる家族を受託者に(監督設計も)
  3. 支払いルールを条項化:施設費・医療費・日用品費・住居費など“支出の範囲”を具体化
  4. 通帳管理を一本化:信託財産の口座(運用方法は金融機関により差)で支払いを回す
  5. 親亡き後の道筋も設計:残った財産の帰属先(誰に、どう渡すか)を決めた

結果:支払いが制度的に説明できるようになり、施設費・生活費が安定。家族の立替・揉め種が減りました。

2. まず確認:いま困っているのは「口座」「不動産」「契約」のどれ?

「財産が動かせない」と言っても、困り方は3種類に分かれます。まず分類してください。

分類 よくある困りごと 先に手当てするもの
口座 引出・解約・振込ができない/暗証番号が不明 支払いの代替ルート(立替のルール化など)
不動産 売却・賃貸・修繕ができず費用が出せない 管理・処分権限の設計
契約 施設契約・入院手続・同意・更新が進まない 代理・同意の枠組み(制度の選択)

ポイント
家族信託は「財産管理(口座・不動産)」の仕組みです。
医療同意など“身上監護”に近い領域は別設計が必要な場面があります(後述)。

3. 家族信託でできること・できないこと(誤解が多いポイント)

できること(強い領域)

  • 施設費・生活費の支払いを“仕組み化”(支出範囲の明確化)
  • 不動産の管理・賃貸・売却の道筋を作りやすい(条項設計が鍵)
  • 親亡き後の承継(残財産の帰属先)を先に決められる

できない/注意が必要なこと(落とし穴)

  • 契約時点で親に意思能力が必要(“もう難しい”となると組めない)
  • 医療同意・入院同意などは信託だけで解決しにくい(別の支援設計が必要)
  • 受託者が不適任・不正のリスク(監督・交代条項などの設計が重要)
  • 金融機関の運用差(信託専用口座の扱い、入出金の実務が異なる)

4. 実務の核心:施設費・生活費を止めない“支払い設計”

家族信託で一番大事なのは「信託を作ること」ではなく、毎月の支払いが滞りなく回る設計です。

支払い設計で決めるべき項目(チェックリスト)

  • 支出の範囲:施設費・医療費・日用品・住居費・交通費など(どこまでOK?)
  • 支払い方法:口座振替・振込・現金(誰が、どの頻度で?)
  • 証憑(領収書等)の扱い:保管場所・共有方法(後で説明できる形に)
  • 緊急時の支出:入院・修繕・引越しなどの大きな出費の決裁ルール
  • 受託者の監督:定期報告、第三者チェック、受託者交代条項
  • 親亡き後:残財産は誰へ、いつ、どう渡すか

ここが“揉めるポイント”
施設費の支払い自体は賛成でも、「どこまでを親のための支出と認めるか」で意見が割れがちです。
だから条項で具体化し、領収書・報告ルールで透明性を作ります。

受託者が動きやすい設計(実務のコツ)

受託者が「怖くて払えない」状態だと、仕組みが止まります。次の工夫が効きます。

  • 定型支出の明記:施設費・家賃・光熱費は“毎月の定型支出”として条項に
  • 上限設定:日用品費は月○万円まで、など上限を作る
  • 高額支出の手順:○万円超は事前に家族会議(または監督者)へ報告
  • 記録の簡素化:領収書は写真でもOK、月1回まとめて保存など

5. 成年後見とどう違う?向き・不向きの判断軸

家族信託と成年後見は、しばしば比較されます。極端に言うと、 信託は「目的を決めて運用する仕組み」後見は「裁判所の監督のもとで守る仕組み」です。

視点 家族信託 成年後見
開始条件 契約なので意思能力が必要 意思能力が低下していても申立可能
目的 施設費・生活費など目的型に設計 本人保護(財産管理・身上監護)を包括的に
監督 設計次第(監督者・報告条項) 裁判所の監督(後見人の報告など)
柔軟性 設計で柔軟にできるが、作り込みが必要 ルールは明確だが、制約もある

判断の一言
親がまだ契約できる状態で、施設費・生活費など目的がはっきりしているなら、家族信託が合うことがあります。
すでに意思能力が厳しい、または身上監護(医療・契約)まで強く必要なら、成年後見が現実的になる場面もあります。

6. 手続きの流れ:誰が・いつ・どこで・何を・どの書類で

家族信託は「書類を作って終わり」ではなく、運用開始までがセットです。
実務の流れを“型”で示します。

  1. STEP 1 現状整理(財産・支払い・家族関係)
    誰が:家族(窓口を一本化)+専門家
    何を:毎月の支払い一覧、資産(預金・不動産)、施設費見込み、緊急支出
  2. STEP 2 親の意思確認(契約可能か)
    いつ:できるだけ早く(“迷っている間に間に合わない”が最悪)
    ポイント:親の理解が保てるうちに説明・合意形成
  3. STEP 3 設計(受託者・支出範囲・監督・親亡き後)
    何を:支払い設計、受託者交代条項、報告ルール、残財産の帰属先
  4. STEP 4 契約書作成・締結(公正証書を選ぶことも)
    書類:信託契約書、本人確認書類等(必要書類は設計で変動)
  5. STEP 5 信託財産の移し替え・運用開始
    何を:口座運用の整備、施設費の支払い開始、領収書・報告ルール運用

7. よくある失敗(間に合わない/受託者が揉める/設計不足)

  • 失敗①:「そのうち」と先送りして、親が契約できない状態になり信託が組めない
  • 失敗②:受託者を“なんとなく”で決め、後から相続人間で不満が爆発
  • 失敗③:支出範囲が曖昧で、受託者が怖くて払えない/逆に不透明になり疑われる
  • 失敗④:監督・報告がなく、受託者の不正リスクが高まる
  • 失敗⑤:親亡き後の承継を決めず、結局“相続で揉める”火種が残る

家族信託は「作れば安心」ではなく、運用できる設計がすべてです。
特に“支払い”と“透明性(報告)”を作り込むほど、家族が安心して回せます。

8. Q&A(今から間に合う?信託口座は?親亡き後は?)

Q1. もう認知症が進んでいます。家族信託は間に合いますか?

カギは契約時点での意思能力です。診断名だけで決まるわけではありませんが、「契約内容を理解して合意できるか」が重要です。
迷っている間に進行してしまうことが多いので、早めに専門家に状況を共有し、選択肢(信託/成年後見など)を整理するのが現実的です。

Q2. 「信託口座」って必ず作れますか?

金融機関によって運用が異なります。信託専用口座の取り扱い、入出金の手続き、必要書類が違うことがあります。
実務では、運用できる金融機関・方法を先に確認し、それに合わせて設計するのが安全です。

Q3. 親亡き後はどうなりますか?

家族信託は、親が亡くなった後の承継(残財産の帰属先)も設計できます。
ただし、遺留分や家族関係も絡むため、遺言と合わせて整合性を取る設計が望ましい場面があります。

Q4. 受託者が不正をしないか心配です。

だからこそ、監督・報告・受託者交代条項などの設計が重要です。
月1回の収支報告、領収書保管ルール、第三者チェックなど、透明性を“仕組み”にすると安心が増します。

9. 関連記事(内部リンク)

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