成年後見と任意後見の違い|現行制度の比較と2026年改正法の注意点

成年後見と任意後見の違い|現行制度の比較と2026年改正法の注意点

「成年後見と任意後見は、結局どちらを選べばよいのでしょうか?」

認知症への備えを考えている方や、知的障害・精神障害のある子の親亡き後を考えているご家族から、よく聞かれる質問です。

結論からいうと、本人が今、契約内容を理解して自分で将来の支援者を選べるのか、それともすでに重要な契約や財産管理について法的な支援が必要なのかによって、検討する制度が変わります。

2026年11月4日現在

成年後見制度を大きく見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。

ただし、成年後見制度の見直し部分は、2026年11月4日現在まだ施行されていません。

施行日は「2026年6月24日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日」とされており、具体的な施行日は今後決まります。

したがって、現在利用する制度は、まだ現行の「後見・保佐・補助」の3類型です。

結論

現在の制度で考えると、本人が十分な判断能力を持ち、任意後見契約の内容を理解して将来の支援者を自分で選べる場合は、任意後見を検討しやすいケースです。

一方、すでに判断能力が不十分で、相続・銀行・不動産・契約などについて法的支援が必要な場合には、現在は法定後見の「後見・保佐・補助」を本人の状態に応じて検討します。

改正法が施行された後は、現行の後見・保佐が廃止され、法定後見は「補助」を中心とした仕組みに一元化されます。ただし、これはまだ将来の制度です。

1|まず整理|「成年後見」と「任意後見」は何が違う?

最初に、言葉を整理しておきます。

法律上の「成年後見制度」は、大きく、

  • 家庭裁判所が関与して支援者を選ぶ法定後見制度
  • 本人があらかじめ契約で支援者を決める任意後見制度

の2つに分かれます。

一般には「成年後見」と言うと、家庭裁判所が後見人等を選ぶ法定後見を指して使われることが多いため、この記事でも分かりやすく、

法定後見 判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が本人を支援する人と権限を決める制度です。
任意後見 本人が判断能力を有するうちに、自分で将来の支援者と代理してもらう内容を決める制度です。

2|2026年11月現在は何が使える?

ここが今回の記事で最も重要です。

2026年に法律は改正されましたが、成年後見制度の改正部分はまだ施行されていません。

項目 2026年11月4日現在
改正法 成立・公布済み
成立日 2026年6月17日
公布日 2026年6月24日
法律番号 令和8年法律第45号
成年後見制度改正の施行日 まだ未定。公布から2年6か月以内で政令指定
現在の法定後見 後見・保佐・補助の3類型
「改正法が成立した」ことと「新制度が使える」ことは別です。

現在申立てをする場合は、原則として現行制度に基づいて後見・保佐・補助を検討します。

3|現在の法定後見制度とは?

法定後見は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分ではなく、法律行為や財産管理に支援が必要な場合に利用を検討する制度です。

現在は本人の判断能力の程度によって、次の3類型があります。

制度 対象のイメージ 主な支援
後見 判断能力を欠くのが通常の状態 成年後見人に広い代理権・取消権が認められる
保佐 判断能力が著しく不十分 一定の重要な行為について同意・取消し等の仕組みがある
補助 判断能力が不十分 本人の同意を基本に、必要な行為に限定して代理権・同意権等を設定する

どの類型になるかは、診断名だけで決まるものではありません。

本人がどの程度判断できるのか、どの法律行為について支援が必要なのかを家庭裁判所が確認します。

現在、法定後見を検討しやすい場面
  • 遺産分割に参加する必要がある
  • 不動産の売却・管理が必要
  • 預貯金の管理が本人だけでは難しい
  • 大きな契約を本人だけで理解することが難しい
  • 悪質商法等から財産を守る必要がある

4|任意後見とは?本人が元気なうちに決める制度

任意後見は、本人が十分な判断能力を有するうちに、将来自分の判断能力が低下した場合に備えて、誰に何を任せるかを決めておく制度です。

契約は公正証書で作成します。

項目 現行制度
契約する人 将来支援を受ける本人
支援者 本人が任意後見受任者を選ぶ
契約方法 公正証書
効力が生じる時期 本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したとき
権限 任意後見契約で定めた代理権の範囲
取消権 法定後見のような一般的な取消権はない
親が成人した子どものために、一方的に任意後見契約を作ることはできません。

任意後見契約の本人は、支援を受ける本人自身です。

障害のある本人が、誰に何を任せる契約なのかを理解し、自分の意思で契約できることが必要です。

5|成年後見と任意後見の違いを比較

比較 法定後見 任意後見
考える時期 すでに判断能力が不十分 本人が契約内容を理解できるうち
支援者 家庭裁判所が選任 本人が選ぶ
権限 法律・家庭裁判所の審判に基づく 契約で定めた代理権
取消権 類型・審判に応じて認められる 原則なし
本人の希望 本人の意思を尊重しつつ家庭裁判所が制度を設計 本人が事前に支援者と内容を決める
開始 家庭裁判所の審判 現行制度では任意後見監督人の選任
一番大きな違いは「いつ選ぶか」です。

任意後見は、本人がまだ自分で将来の支援者を決められるうちに準備します。

法定後見は、すでに判断能力が不十分になり、現実に法的支援が必要な場合に利用を検討します。

6|2026年改正法で法定後見はどう変わる?

改正法が施行されると、現在の「後見・保佐・補助」という3類型は大きく変わります。

後見・保佐が廃止され、補助へ一元化

改正法では、現行の後見・保佐を廃止し、判断能力が不十分な人すべてを補助制度の対象とします。

つまり、本人を大きな類型に当てはめて広い権限を付ける制度から、本人に必要な行為・権限を個別に設定する方向へ変わります。

判断能力を常に欠く人には「特定補助人」

判断能力を欠くのが通常の状態にある人については、改正後の補助制度の中に、より強い保護を可能にする特例が設けられます。

家庭裁判所は、一定の重要な財産行為を取り消す権限などを持つ特定補助人を付けることができます。

必要がなくなれば審判を取り消せる

現行の後見では、一度始まると、申立てのきっかけとなった相続や不動産売却が終わっても、判断能力が回復しない限り原則として利用が続きます。

改正後は、支援の必要性がなくなった場合には、家庭裁判所が補助に関する審判を取り消すことができる仕組みになります。

「改正後は自動的に終わる」という意味ではありません。

必要性がなくなった場合に、家庭裁判所が審判を取り消す仕組みです。

本人の意向を把握・尊重することを明確化

補助人は、本人の心身の状態に応じた適切な方法で、本人の意向を把握しながら事務を行うことが求められます。

本人の意思決定を支援しながら必要な保護を行うという方向性が、より明確になります。

7|2026年改正法で任意後見はどう変わる?

任意後見についても重要な変更があります。

「任意後見開始の審判」という仕組みへ

現行制度では、任意後見監督人が選任された時から任意後見契約の効力が生じます。

改正後は、家庭裁判所が任意後見開始の審判を行う仕組みになります。

任意後見監督人を選任しない例外ができる

現行制度では、任意後見を開始するには任意後見監督人が必要です。

改正後は、家庭裁判所が明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認める場合には、監督人を選任しないことができるようになります。

監督人が不要になるのは例外です。

「家族だから監督人なしでよい」と当事者だけで自由に決める制度ではありません。

任意後見と補助を併用できる方向へ

現行制度では、任意後見と法定後見が重複しないようにする仕組みが強く設けられています。

改正法では、本人が補助開始の審判を受けたことだけを理由として任意後見契約が終了するという規定が削除されます。

そのため、改正後は、任意後見を基本としながら、不足する部分について補助制度を利用するという制度設計も可能になります。

任意後見契約の全部・一部解除

改正後は、任意後見契約について全部または一部を解除する仕組みが明確になります。

時期 改正後の考え方
任意後見開始前 本人または任意後見受任者は、一定の方式により契約の全部または一部を解除できます
任意後見開始後 正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て全部または一部を解除できます

8|すでに成年後見・保佐を利用している人はどうなる?

「改正法が施行されたら、現在の成年後見や保佐は自動的に補助へ変わるのでしょうか?」

この点も重要です。

結論

施行日前から後見・保佐を利用している人については、施行日に一斉に補助へ切り替わるわけではありません。

原則として、改正前の制度が引き続き適用される経過措置が設けられます。

一方で、本人の状況や支援の必要性に応じ、請求によって改正後の補助制度へ移行したり、後見・保佐開始の審判を取り消したりできる仕組みも設けられています。

実際の申立方法や家庭裁判所の運用については、施行日までに今後さらに公表される情報を確認する必要があります。

9|成年後見と任意後見、どちらを選ぶ?ケース別に考える

ケース1|本人が契約内容を理解でき、将来の希望もある

本人が「誰に何を任せるのか」を理解し、自分の意思で支援者を選べるのであれば、任意後見を検討しやすいケースです。

ただし、現在の日常的な支払い等について支援が必要であれば、財産管理委任や福祉サービス等も別に検討します。

ケース2|すでに相続や重要な契約が進められない

親が亡くなり遺産分割が必要になった、不動産を処分する必要がある、重要な契約を本人だけで理解できない、といった場合です。

本人が任意後見契約そのものを理解して締結することが難しい場合、今から任意後見を作る方法では対応できません。

現在は、本人の判断能力に応じて後見・保佐・補助を検討します。

ケース3|見守りや支払い支援だけが必要

判断能力に大きな問題はなく、日常的な支払い、書類整理、見守りなどだけに支援が必要な場合があります。

このような場合には、最初から成年後見を利用せず、財産管理委任、見守り、福祉サービス等で対応できるケースもあります。

ケース4|親の財産を障害のある子へ残したい

これは成年後見・任意後見だけで解決する問題ではありません。

遺言、生命保険、家族信託などを含め、親の財産を誰にどう承継させ、その後誰が管理するのかを別に考える必要があります。

10|障害のある子の家庭で特に注意したい4つのこと

① 親だから成人した子の代理人になれるわけではない

成人した本人について、親であるという理由だけで銀行手続き、契約、不動産処分、遺産分割などを自由に代理できるわけではありません。

② 障害名だけで成年後見が必要とは決まらない

知的障害や精神障害があるという理由だけで、成年後見制度を利用しなければならないわけではありません。

本人が何を理解でき、どの場面で支援が必要なのかを具体的に確認します。

③ 任意後見は「親が子のために契約する制度」ではない

任意後見の本人は、障害のある子本人です。

本人が契約内容を理解し、自分の意思で契約できることが必要です。

④ 後見だけで親亡き後すべてを解決できない

後見人や任意後見人は、法律行為や財産管理を支援する立場です。

住まい、日常生活、通院、福祉、見守り、親自身の死後事務、親の財産承継などは別の仕組みが必要になることがあります。

11|成年後見・任意後見でできないこと

よくある期待 実際
すべての医療行為に同意する 後見人・任意後見人だからといって、すべての医療行為について当然に同意権があるわけではありません
食事・掃除・介護を直接行う 法律上の後見業務とは別で、福祉サービス等との連携が必要です
本人の希望を無視して何でも決める 本人の意思・意向を尊重する必要があります
親の財産を自由に子どものために使う 親の財産と子どもの財産は別です
本人が死亡した後のことをすべて行う 死亡後の事務、相続、遺言執行等は別途整理する必要があります

12|親亡き後は「後見だけ」ではなく役割分担で考える

困りごと 検討する仕組み
本人の法律行為・財産管理 法定後見・任意後見
判断能力がある間の日常的な財産管理 財産管理委任等
親の財産を誰へ残すか 遺言
財産を長期的に管理する仕組み 家族信託等
住まい・生活・介護 相談支援、福祉サービス、グループホーム等
親自身の葬儀・納骨等 死後事務委任等
大切なのは「どの契約をするか」から考えないことです。

本人の生活の中で、

・誰が住まいを支えるのか
・誰がお金を管理するのか
・誰が契約を支援するのか
・親の財産をどう残すのか
・親が亡くなった後、誰が動くのか

を整理し、足りない部分に必要な制度だけを組み合わせます。

13|よくある質問

Q. 2026年の成年後見制度改正はもう施行されていますか?

いいえ。2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されましたが、2026年11月4日現在、成年後見制度の見直し部分はまだ施行されていません。施行日は公布から2年6か月以内で政令により決められます。

Q. 今、成年後見を申し立てると補助だけになりますか?

いいえ。改正法はまだ施行前なので、現在は後見・保佐・補助の3類型があります。本人の判断能力に応じて家庭裁判所が判断します。

Q. 改正後は後見・保佐がなくなりますか?

改正法施行後の新規の法定後見制度は補助へ一元化されます。ただし、施行前から利用している後見・保佐については経過措置が設けられ、一斉に自動変更されるわけではありません。

Q. 改正後は成年後見を途中でやめられますか?

改正後は、支援の必要性がなくなった場合、家庭裁判所が補助に関する審判を取り消すことができる仕組みになります。ただし、自動的に終了するわけではありません。

Q. 改正後は任意後見監督人が不要になりますか?

一律に不要になるわけではありません。家庭裁判所が明らかに監督の必要がないと認める場合に限り、監督人を選任しないことができる例外が設けられます。

Q. 障害のある子でも任意後見契約を作れますか?

障害名だけで決まるものではありません。本人が契約の意味、任せる相手、任せる内容を理解し、自分の意思で契約できるかを個別に確認します。

Q. 任意後見と法定後見は併用できますか?

現行制度では任意後見を優先し、両制度が重ならないようにする仕組みが基本です。改正法では、任意後見契約と補助の併存を可能にする方向へ制度が見直されます。

Q. 日常的なお金の管理だけなら後見が必要ですか?

必ずしも必要ではありません。本人に十分な判断能力があり、日常的な支払い等だけに支援が必要であれば、財産管理委任や福祉サービス等で対応できる場合があります。

「成年後見か任意後見か」だけで決める必要はありません

本人の判断能力、今困っていること、住まい、財産、家族・支援者との関係によって、必要な備えは異なります。

後見を使わなくてもよい場合もあります。

主な参考情報:
法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
参議院「第221回国会 民法等の一部を改正する法律案」
衆議院「第221回国会 法務委員会」
裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」
裁判所「任意後見監督人選任」
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