親亡き後対策で最初に読む記事|障害のある子の将来に必要な準備を5ステップで整理

📞 「自分が亡くなった後、この子はどう生きていくのだろう…」とお悩みの親御様へ

知的障害・精神障害・発達障害のあるお子さまを持つ親御様にとって、「親亡き後(おやなきあと)」の生活、住まい、お金、医療、相続の手続きは最も大きな心配事の一つです。しかし、どこから手を付ければよいか分からず、後回しになってしまうご家庭も少なくありません。

結論として、親亡き後対策は単一の仕組み(遺言や成年後見など)だけで完結するものではありません。「住まい」「お金」「権利擁護・手続き」「支援者体制」を組み合わせ、5つのステップに沿って段階的に整理することが成功の鍵です。

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① 親亡き後対策で最初に知っておくべき全体像と結論

障害のあるお子さまの将来を守るための「親亡き後対策」について調べ始めると、遺言書、成年後見制度、家族信託、グループホーム、障害年金など、非常に多くの専門用語や制度が目に入ります。「結局、我が家は何から始めればいいの?」と混乱してしまうのは当然のことです。

親亡き後対策を考えるうえで、最初に押さえておくべき最重要な結論は次の3点です。

親亡き後対策の基本ルール3か条

  • 【ひとつの仕組みに頼らない】:遺言書を作っただけ、あるいは成年後見人を決めただけでは、生活・住まい・医療のすべてをカバーすることはできません。
  • 【きょうだい・家族に丸投げしない】:健常なお子さま(きょうだい)に「弟(妹)のことを頼むね」と言い残すだけでは、将来的にきょうだいの負担が過重になり、共倒れになるリスクがあります。福祉サービスや専門家を交えたチーム支援が不可欠です。
  • 【本人の意思と意思決定支援を軸にする】:障害があるからといってすべてを親や支援者が決めるのではなく、本人がどう過ごしたいか、どんな暮らしを望んでいるかを尊重した準備を行います。

親亡き後対策は、「法律」「福祉」「生活」「お金」が複雑に絡み合う分野です。これらを一度に完璧にしようとすると途中で挫折してしまいます。まずはご家庭の現状を整理し、必要な準備を「5つのステップ」に分けて一歩ずつ進めていくことが確実な近道となります。

② 障害のある子を持つ親が抱えやすい「将来の不安」とは?

当法人に寄せられるご相談の中で、ご家族が共通して抱えていらっしゃる悩みには以下のようなものがあります。

よくある具体的なお悩みと現実の課題

  • 住まいの不安:自分たちが倒れたり死亡したりした後、子どもは今の自宅で暮らせるのか?福祉施設やグループホームに入れるのだろうか?
  • 日常生活・支援の不安:毎日の服薬、病院受診、掃除や買い物を誰が手伝ってくれるのか?体調を崩したときに気づいてもらえるか?
  • お金と資産の不安:障害年金だけで生活できるのか?親の遺産(預貯金や持ち家)を残しても、本人が騙されたり使い込んでしまったりしないか?
  • 相続手続きの不安:親が亡くなった後、本人が遺産分割協議に参加できるのか?本人の代わりに手続きをしてくれる人はいるのか?
  • きょうだいの負担:他のきょうだいに自分の人生を歩ませてあげたいけれど、障害のある子の面倒を見させることにならないか?

これらの不安は、決して特別なものではありません。そして、不安の多くは「親が一人で(または夫婦だけで)我が子の全てを支え続けている状態」から生じています。親亡き後対策の根幹は、「親しか知らない我が子の情報や生活支援を、地域の福祉や社会の仕組みにバトンタッチしていくプロセス」そのものなのです。

③ なぜ今、親亡き後対策を「ステップ順」に整理することが重要なのか

親亡き後対策を思い立ったとき、いきなり「遺言書を書こう」「家族信託を結ぼう」といった法律手続きに走ってしまうケースが見受けられます。しかし、これは順番が逆になってしまう危険があります。

例えば、どれだけ手厚い遺言書を作成しても、本人が将来暮らす「住まい(グループホーム等)」が決まっていなければ、遺産からどれだけの生活費が必要になるかの計算が立ちません。また、本人が利用する障害福祉サービスや担当の相談支援専門員が決まっていなければ、遺産があっても活用する手段が制限されてしまいます。

適切な順番で進めるメリット

親亡き後対策を正しいステップで整理すると、以下のようなメリットがあります。

  1. 無駄な費用や不要な契約を結ばずにすむ
  2. 今すぐやるべきことと、将来親が高齢化してからやるべきことが明確になる
  3. 親自身の老後資金と、子どもに残すお金の境界線がはっきりする
  4. 支援者(福祉関係者や専門家)に相談する際の伝え方が明確になる

④ この記事で分かること(5ステップの概要)

本記事では、知的障害・精神障害・発達障害のあるお子さまの「親亡き後」に備えるための実践的な手順を、以下の5ステップに体系化して分かりやすく解説していきます。

ステップ テーマ 主な内容・確認事項
ステップ1 現状の整理(見える化) 子の障害の特性、意思、現在の月次収支、判断能力の把握
ステップ2 住まいと日中活動の確保 グループホーム、施設入所、一人暮らし、就労・デイサービスの検討
ステップ3 お金と生活費の設計 障害年金の確認、親の遺産額の把握、将来の月次収支シミュレーション
ステップ4 財産管理・契約の仕組み作り 遺言書、家族信託、任意後見・成年後見制度の適正な選択・使い分け
ステップ5 支援チームの結成と見直し サービス等利用計画、専門家や地域との連携、年1回の定期見直し

⑤ 目次

⑥ 【ステップ1】現状の整理|子の状態・意思・月次収支・権利擁護の必要性を知る

親亡き後対策の最初の一歩は、お子さまとご家庭の「現在の状況」を客観的に整理し、紙に書き出して「見える化」することです。頭の中で考えているだけでは、具体的に何が不足しているのかが見えてきません。

1. お子さま本人の意思と特性の確認

まず大切なのは、障害のあるお子さま本人が「どのような暮らしをしたいと思っているか」という思いや意思を丁寧に聞き取ることです。言葉での表現が難しい場合であっても、日頃の表情や態度から、得意なこと、苦手なこと、ストレスを感じる場面、好きな過ごし方を記録します。

2. 判断能力と「自分でできること・支援が必要なこと」の分類

日常生活や社会生活において、本人がどこまで一人で判断・実行できるかを整理します。一律に「何もできない」と決めつけるのではなく、細かく分類することが大切です。

区分 具体的な動作・行為の例 必要な支援の方向性
本人ができること 自分の名前の記入、買い物の支払いやお釣りの確認、決まったルートでの移動 本人の自立を尊重し、過剰な介入を避ける
支援があればできること 服薬管理(声かけがあれば飲める)、行政手続き(見守りや同行があれば可能)、福祉サービスの契約内容の理解 見守り契約、日常生活自立支援事業、相談支援員の関与
代行が必要なこと 複雑な契約(不動産・売買・ローン)、遺産分割協議への参加、高額な財産管理 任意後見・成年後見制度、家族信託などの法的手段

3. 現在の月次収支と資産の把握

お子さま本人の収入(障害年金、手当、給料など)と、毎月かかっている支出(医療費、日用品費、趣味娯楽費、福祉サービス利用料の自己負担など)を整理します。この段階で、収入と支出のバランスがどうなっているかを把握しておくことが、ステップ3のお金シミュレーションの基盤となります。

⑦ 【ステップ2】住まいと日中活動の確保|グループホーム・施設入所・一人暮らしの検討

親が倒れたとき、あるいは亡くなったときに最も切実な問題となるのが「子どもがどこで暮らすか」という住まいの問題です。親が健在なうちに住まいの基盤を整えておくことは、最大の親亡き後対策と言えます。

主な住まいの選択肢と特徴

障害のある方の主な住まいには、以下の選択肢があります。

選択肢1

障害者グループホーム(共同生活援助)

世話人や生活支援員によるサポートを受けながら、地域の中で数人の利用者が共同生活を送る住まいです。食事の提供、服薬支援、夜間の緊急対応などを受けられます。近年では親亡き後の最も有力な選択肢となっていますが、事業所によって夜間体制や医療的ケアへの対応力、利用期限(終身対応か否か)が異なるため事前の見学や体験利用が不可欠です。

選択肢2

障害者入所施設(施設入所支援)

主に常時介護や手厚い支援を必要とする方を対象とした施設です。24時間体制で介護や生活支援が提供されます。空き枠の状況や自治体の支給決定方針によって入所までのハードルが異なる場合があります。

選択肢3

自宅での一人暮らし + 福祉サービスの活用

親亡き後も実家に住み続ける、または賃貸物件等で一人暮らしを行い、居宅介護(ヘルパー)や訪問看護、地域生活支援事業などを組み合わせて暮らす方法です。一定以上の自立生活能力や、周辺地域のバックアップ体制が必要です。

親が元気なうちに「体験利用」を進める重要性

親が亡くなってから急に新しい住まいに環境が変わると、本人は大きな環境変化によるストレスやパニックを引き起こすことがあります。親が元気なうちにグループホームの短期入所(ショートステイ)や体験利用を繰り返し、少しずつ親と離れて過ごす時間に慣れておくことが、スムーズな移行のために非常に重要です。

⑧ 【ステップ3】お金の準備と生活費の設計|障害年金・手当・遺産・親の老後資金

親亡き後の資金計画では、「子どもに必要な生活費」と「親自身の老後生活費・介護費」を切り離して計算することが大切です。

1. 本人の基礎収入:障害年金と手当

障害のあるお子さまの生涯にわたる貴重な財源となるのが「障害年金」です。

  • 障害基礎年金:原則として20歳に達したとき、または初診日が20歳前にある場合に請求可能です(1級・2級)。20歳前傷病による障害基礎年金の場合、本人自身の所得による支給制限が設けられています(親の所得ではなく、本人の前年所得で判定されます)。
  • 障害厚生年金:企業等で勤務し、厚生年金保険に加入している期間中に初診日がある場合は、障害厚生年金(1級〜3級)が支給される可能性があります。

障害年金は本人の貴重な固有財産です。親の生活費口座と混ぜず、必ず本人名義の独立した口座で管理・運用するようにしましょう。

2. 将来の月次収支シミュレーション

本人の収入(障害年金 + 工賃・給料 + 各種手当)と、将来の想定支出(グループホーム家賃・食費・光熱費・日用品費・医療費など)を差し引きし、「毎月いくら不足するのか(あるいは赤字にならないのか)」を計算します。

収支シミュレーションの例(グループホーム利用時)

【収入】

  • 障害基礎年金1級:約8.1万円/月(年額約97.5万円)
  • 就労継続支援B型工賃:約1.5万円/月
  • 自治体独自の障害手当等:約1.0万円/月
  • 収入合計:約10.6万円/月

【支出】

  • グループホーム利用料・家賃・食費・光熱費(補足給付等控除後):約7.0万円/月
  • 日用品・服飾・嗜好品・日中活動費:約2.0万円/月
  • 医療費・通信費・予備費:約1.0万円/月
  • 支出合計:約10.0万円/月

【判定】

このケースでは毎月の収支がほぼ均衡しているため、生活費の日常的な持ち出しリスクは低いと言えます。ただし、家電の買い替えや入所一時金、将来の医療費増に備えて、親からの相続財産(予備資金)を安全に残す仕組みが必要となります。

⑨ 【ステップ4】財産管理・契約の仕組み作り|遺言・家族信託・成年後見の使い分け

ステップ3で算出した資金や所有する不動産を、親亡き後に「誰が・どのように管理し・本人のために使うか」という法的・具体的な仕組みを作成します。

ここで重要なのは、法律上の制度にはそれぞれ役割と限界があるということです。一つの制度ですべてをカバーしようとするのではなく、組み合わせて利用します。

制度名 主な役割・得意なこと 苦手なこと・限界 本人の判断能力の要件
遺言(公正証書遺言等) 親の死後、指定した財産(不動産・預貯金)を障害のある子や特定の親族へ円滑に渡す 親の死後の本人の生活支援、渡した後の財産管理や契約手続きそのものは行えない 親(遺言者)に遺言能力が必要
家族信託(福祉型信託) 親の生存中・死後を通じて、信託財産(お金や不動産)を受託者(信頼できる親族等)が計画的に管理・給付する 信託財産以外の管理、本人の福祉サービス契約や医療受診等の身元保証・法的代理権はない 親(委託者)および受託者に契約締結能力が必要
任意後見制度 本人の判断能力が十分なうちに、将来の代理人や支援内容を自分で契約で決めておく 判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任するまで効力が生じない 本人に任意後見契約の意味を理解する能力が必要
法定後見制度(成年後見等) 本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が選任した支援者が本人を法的・財産的に守る 親の生きている間の生前対策には使えない。毎日の介護や常時見守りを後見人本人が行うわけではない 本人の判断能力が低下・欠如していることが条件

⑩ 【ステップ5】支援チームの結成と見直し|きょうだいに頼りすぎないサポート体制の構築

どれほど堅固な財産管理システムを作っても、本人の日々の暮らしを温かく見守り、体調の変化や困りごとに気づいてくれる「人」の存在がなければ、親亡き後対策は完結しません。

「きょうだい」に負担を集中させない視点

ご家庭の中に健常な兄弟姉妹(きょうだい)がいる場合、「親亡き後はきょうだいが面倒を見るのが当たり前」と考えてしまいがちです。しかし、きょうだいにも自身の仕事、結婚、子育て、生活があります。

きょうだいに全ての支援や代理業務を負わせると、共倒れになったり感情的な対立が生じたりする恐れがあります。きょうだいには「主たる介護者・法的代理人」になってもらうのではなく、「本人の良き理解者・アドバイザー」として支援チームの一員に参加してもらう形を目指すことが、家族全員の幸せにつながります。

親亡き後を支える「支援チーム」の構成例

  • 相談支援専門員:「サービス等利用計画」を作成し、障害福祉サービスの利用や地域生活全体をコーディネートする中心人物。
  • グループホーム・事業所のスタッフ:毎日の食事、掃除、服薬、日常生活の直接的サポートを担当。
  • 権利擁護の担い手:日常生活自立支援事業の専門員(日常的な金銭管理等)や、成年後見人・任意後見人(契約行為や高額財産管理)。
  • 専門家(行政書士・司法書士等):家族信託の受託者・監督人や、定期的な見守り契約・死後事務委任の受任者。
  • きょうだい・親族:チームの報告を受け、本人の様子を時折見守り、大切な意思決定の際に助言を与える。

⑪ 成年後見制度の誤解と真実|障害があるからといって必須ではない理由

「障害のある子を持つ親亡き後対策=成年後見制度を利用すること」と思い込んでいる方が多くいらっしゃいます。しかし、これは誤解です。

1. 成年後見制度が必要になるのはどんなとき?

制度を利用するかどうかは、手帳の有無や病名だけで決まるものではありません。「本人が自分一人で適切な判断や契約行為(法律行為)を行えるか」「周囲のサポートや既存の福祉サービスでカバーできるか」によって個別に判断されます。

成年後見制度(法定後見)がどうしても必要になる主な場面は以下の通りです。

  • 親が亡くなり、遺産分割協議を行う必要があるが、本人が遺産分割の内容や意味を理解できないとき
  • 本人の名義の不動産(持ち家等)を売却・処分する必要が生じたとき
  • 悪質商法の被害に繰り返し遭ってしまうなど、単独での財産保護が著しく困難なとき

2. 成年後見人の「できること」「できないこと」

成年後見人に対する期待と実際の制度内容にズレが生じることが多いため、正確な理解が必要です。

注意!成年後見制度に関する正しいルール

  • 日常の介護や見守りは行わない:後見人の仕事は「財産管理」と「契約等の法律行為の代理・同意」です。毎日の食事作り、掃除、介護、病院への連添いを後見人自身が行う義務はありません。
  • 医療同意権の問題:現行の法律上、成年後見人にはあらゆる医療行為(手術や延命治療の選択など)について包括的な「医療同意権」が認められているわけではありません。医療現場での同意は、本人や親族、医療チームによる慎重な意思決定支援プロセスが重視されます。
  • 一度始まると途中でやめられない:法定後見が開始されると、「相続が終わったから」「施設契約が終わったから」といった理由で途中で終了させることは原則としてできません。本人の判断能力が回復しない限り、本人が亡くなるまで継続し、専門職後見人が選任された場合は毎月一定の報酬(家庭裁判所が決定)が発生します。

3. 2026年成年後見制度改正について(成立・公布と施行予定)

成年後見制度の運用見直しを図る民法等の改正法案が、2026年6月17日に成立し、2026年6月24日に公布されました。この改正は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日(未施行)に施行される予定です。

改正のポイントは、利用者がより柔軟に制度を利用できるよう「必要な期間のみ利用可能にする仕組み」や「後見人の交代・終了の要件緩和」などが検討されている点です。ただし、現時点で既に開始されている後見手続きが自動的に終了・変更されるわけではありません。最新の法改正動向を踏まえつつ、適切なタイミングを判断することが重要です。

⑫ 家族信託と遺言書の役割分担|親の財産を障害のある子へ安全に引き継ぐ方法

親亡き後対策でお金を残す際、有効なツールとなるのが「遺言」と「家族信託(福祉型信託)」です。両者は対立するものではなく、目的によって使い分けます。

1. 遺言書だけでは防げないリスクとは?

「自分が死んだら全財産を障害のある子に相続させる」という内容の遺言書を作成したとします。遺言書によって財産の権利は子に移転しますが、「引き継いだ大量の預貯金を、判断能力に不安のある本人が適切に管理・運用できるか」という問題が残ります。

本人がお金の計算や管理を行えない場合、相続した預貯金口座が凍結されたり、周囲の悪意ある人物に奪われたりするリスクがあります。

2. 家族信託(福祉型信託)を組み合わせるメリット

家族信託を利用すると、親(委託者)が生きているうちに自身の財産(現金や不動産)を信頼できる親族等(受託者)に託し、信託契約に基づいて管理・給付させることができます。

福祉型信託の仕組み例

  • 委託者(財産を預ける人):
  • 受託者(財産を管理・運用する人):信頼できる親族(例:健常なきょうだい)や専門職機関
  • 受益者(財産から生じる利益を受け取る人):障害のある子
  • 信託監督人(受託者をチェックする人):行政書士等の専門家

この仕組みを作っておくことで、親が亡くなった後も、受託者が信託口座から毎月決められた生活費(例:月8万円)をお子さまの生活口座へ給付し続けることができます。これにより、お子さまが一度に大金を手にしてトラブルに巻き込まれるリスクを防ぎ、長期間にわたって安定した生活費を給付することが可能になります。

※注意:成人したお子さま自身が受け取る障害年金や、お子さま本人の固有名義の口座にある財産を、親の作った家族信託契約の中に当然に組み込むことはできません。お子さまの財産管理については別途検討が必要です。

⑬ 障害年金と生活保護の基本|誤解しやすい要件と収入認定の仕組み

「親亡き後の生活費が足りなくなったらどうなるのか?」という不安に対して、公的扶助制度(障害年金・生活保護)の正しい知識を持つことが安心につながります。

1. 障害年金に関するよくある誤解

  • 誤解「働いたら障害年金は必ず止まる?」
    → 就労していることだけをもって直ちに障害年金が停止されるわけではありません。仕事内容、職場での配慮の有無、勤務時間、欠勤状況、日常生活における支援の必要性を総合的に考慮して判定されます。
  • 誤解「障害者手帳を持っていれば必ずもらえる?」
    → 手帳の等級と障害年金の等級は別の基準です。初診日要件、保険料納付要件、法令で定められた障害状態要件を満たす必要があります。

2. 生活保護制度の基本構造と相続財産の関係

生活保護は、生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに自立を助長する制度です。

項目 誤解しやすいポイントと正確な事実
障害年金と生活保護の関係 障害年金は非課税所得ですが、生活保護制度においては「収入」として全額認定されます。最低生活費から障害年金等の収入を差し引いた金額が保護費として支給されます。
預貯金・資産の所有制限 「貯金が1円でもあれば申請できない」わけではありません。日常生活に必要な一定の預貯金や、処分が困難な居宅不動産などは個別に保有が認められる場合があります。
相続・贈与と生活保護 生活保護受給中に遺産を相続したり、保険金を受け取ったりした場合は福祉事務所への届け出が必要です。取得額に応じて一時的に保護が停止・廃止されることがありますが、遺産を使い切った後に要件を満たしていれば、再度生活保護を申請・受給することが可能です。

※意図的に財産を隠して生活保護を受給する行為や、親族名義へ資産を隠蔽・移転させることは不正受給となるため絶対に行ってはなりません。

⑭ 親亡き後対策で絶対に避けたい「よくある失敗例」6選

多くのご家庭のご相談を受ける中で見えてきた、親亡き後対策の「よくある失敗例」をご紹介します。あらかじめ失敗パターンを知っておくことで、未然に防ぐことができます。

失敗例1:きょうだいに「口頭」で頼んでおいただけで終わっていた

「親亡き後は弟のことをよろしくね」と口頭で伝えていたものの、親の死亡後にきょうだい自身の生活(結婚や転職)が忙しくなり、支援を行えなくなったケース。書面や具体的な福祉・法的契約を伴わない口約束は不全に終わるリスクが高まります。

失敗例2:遺言書を作ったが、封印された自筆証書遺言を勝手に開けてしまった

親が自宅で手書きの遺言書(自筆証書遺言)を残していたが、死後に家族が法的な知識がないまま勝手に開封してしまったケース。
※法務局で保管されていない封印された自筆証書遺言は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経ずに勝手に開封してはなりません(過料の対象となる場合があります)。公正証書遺言や法務局保管制度の利用をおすすめします。

失敗例3:共有名義で不動産を相続させてしまった

「兄弟平等に」と考え、実家の土地家屋を「障害のある子」と「健常なきょうだい」の持ち分50%ずつの共有名義にしてしまったケース。将来、家屋の修繕、賃貸、売却を行おうとした際、障害のある本人の判断能力が十分でないと共有者全員の意思表示ができず、不動産が塩漬けになってしまいます。

失敗例4:成年後見人を付ければ何でも介護や世話をしてくれると思っていた

専門職の成年後見人(弁護士や司法書士等)を選任したが、後見人が病院の送迎や掃除を行ってくれないことに不満を抱くケース。前述のとおり、後見人の職務は「財産管理と契約」であり、直接の生活介護・身の回りのお世話を行う役割ではありません。

失敗例5:親の口座に本人の障害年金を混ぜて管理していた

長年にわたり、親の生活費口座に本人の障害年金を振り込ませて一緒に使っていたケース。親の相続が発生した際、口座内の資金のうち「どこまでが親の遺産で、どこまでがお子さま固有の金銭か」の判別がつかなくなり、遺産分割トラブルや税務上の問題を引き起こします。

失敗例6:本人の意見を聞かずにすべて親と専門家だけで進めてしまった

本人の意思を一切確認せず、親の希望だけで住まいや契約を決定してしまった結果、環境の変化に本人が馴染めず、グループホームを飛び出してしまう等のトラブルに発展するケース。

⑮ 親亡き後対策を進める【時系列ロードマップ】

親亡き後対策は一度に完成するものではありません。以下の時系列ロードマップを参考に、時間をかけて着実にステップを進めていきましょう。

最初の1か月

【ステップ1】情報の整理と現状の「見える化」

  • お子さまの障害の特性、得意・苦手、意思・希望を「支援者ノート」等に記録する
  • 本人名義の預貯金、障害年金の支給額、手当を一覧表にする
  • 現在の1か月あたりの生活費(収入と支出)を算出する
3か月目まで

【ステップ2】福祉サービス・相談先の確保

  • 基幹相談支援センターや担当の「相談支援専門員」に連絡を取り、将来の相談を行う
  • 「サービス等利用計画」の見直し・作成を依頼する
  • グループホームや日中活動の施設の見学、短期入所(ショートステイ)の体験予約を入れる
6か月目まで

【ステップ3・4】将来資金シミュレーションと法律手続きの検討

  • 親自身の老後資金と、お子さまに残す遺産額の概算を算出する
  • 遺言書作成(公正証書遺言)、家族信託、任意後見契約の必要性を専門家に相談する
  • 実家不動産の将来的な取り扱い(売却、活用、引き継ぎ方法)の方針を決める
1年目まで

【ステップ5】制度の導入と見守り体制のスタート

  • 公正証書遺言の作成や、信託契約・見守り契約の締結を行う
  • グループホーム等の本格利用、または定期的な体験入所を習慣化する
  • 本人専用の管理口座を確立し、親の財産と完全に分離する
その後(年1回の定期見直し)

【見直し】親の加齢やお子さまの変化に応じたアップデート

  • 年に1回、家族会議や支援者との打合せを行い、計画のズレを修正する
  • 親の認知症リスク、介護が必要になった場合の連絡体制を再確認する

⑯ 【保存版】障害のある子の親亡き後対策チェックリスト

ご家庭での準備状況を確認できるチェックリストです。印刷または画面上で定期的にチェックし、不足している部分を確認してください。

【保存版】親亡き後対策チェックリスト

■ 1. 本人の状態・情報整理

  • 本人の病名、障害の特性、配慮事項が分かるノート(支援者ノート等)がある
  • 本人の好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、意思表示の方法が整理されている
  • お薬手帳や、かかりつけ医・通院履歴の情報がまとまっている

■ 2. 住まいと日中活動

  • 将来の住まい(グループホーム、施設、自宅継続等)の方向性が決まっている
  • ショートステイやグループホームの体験利用を行ったことがある
  • 日中の通い先(作業所、生活介護、デイサービス等)が確保されている

■ 3. お金・資産管理

  • 障害年金の受給手続きが完了しており、本人名義の口座で受給している
  • 親の生活費とお子さまの財産が明確に分離して管理されている
  • 親亡き後の本人の月次収支シミュレーションを行っている

■ 4. 法律・相続の準備

  • 公正証書遺言の作成、または法務局保管制度の利用を検討・実施している
  • 不動産の共有相続を避ける方針が固まっている
  • 必要に応じて家族信託、任意後見、成年後見制度の検討を行っている

■ 5. 支援体制・関係機関

  • 担当の相談支援専門員が決まっており、定期的に連絡が取れている
  • きょうだい・親族へ「求める役割」と「負わせない負担」について話し合っている
  • 親に万一(緊急入院・死亡)があった際の最初の連絡先が指定されている

⑱ まとめ|一人で抱え込まず、専門家・福祉事業者とチームを作ろう

障害を持つお子さまの将来に備える「親亡き後対策」は、決して親一人の肩にかかる重荷ではありません。大切なのは、親が元気なうちに社会の仕組みや福祉サービス、そして専門家とつながり、お子さまを支える「チーム」を作り上げることです。

ステップ1の現状整理から始めて、住まい、お金、法的仕組み、支援体制を1つずつ順番に積み上げていくことで、将来の不安は確実に目に見える「安心」へと変わっていきます。

どこから手を付けてよいか迷われたときや、ご家庭特有の複雑な状況でお困りの際は、どうぞお気軽に私たち「障害を持つ子どもの親亡き後を支える会(ハートリンク行政書士法人)」までご相談ください。


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