きょうだいが揉めた「不公平感」|遺留分も考慮して遺言を作り直した解決事例

きょうだい相続不公平感遺留分遺言の作り直し

きょうだいが揉めた「不公平感」|遺留分も考慮して遺言を作り直した解決事例

きょうだいの相続トラブルは、「金額の差」より「納得できない気持ち」から始まることが多いです。
とくに、障害のある子がいるご家庭では、支援の負担親の思い将来の責任が絡み、火種が複雑になりがちです。

最初に結論(ここだけ読んでもOK)
きょうだいの「不公平感」をこじらせないコツは、遺言で①取り分 ②理由 ③支払いの現実をセットにすることです。

特に重要なのは、遺留分(最低限の取り分)を“後から現金で請求され得る”点を踏まえて、
遺留分の安全域(最低限のライン)を確保する
現金が足りない場合の原資(保険・預金の残し方・売却方針)を用意する
家族会議で「なぜそうするか」を先に共有する
——この3点です。

大事な前提:この記事でいう「きょうだい」は、被相続人(親)の“子ども同士”のことを想定しています。
※「被相続人の兄弟姉妹(おじ・おば)」の話だと遺留分の扱いが変わります。混同しやすいので、本文で分けて説明します。

0. 今すぐできる整理:揉める前に“3つだけ”確認

「遺言を作り直した方がいい?」と悩むとき、まずは次の3点だけ確認すると、方向性が一気に見えます。

  • ① 誰が相続人か:配偶者・子・親(直系尊属)がいるか。“被相続人の兄弟姉妹”が相続人になるパターンかどうかも確認。
  • ② 財産の形:現金(預金)が多い? 不動産が中心?現金が少なく不動産が多いほど、遺留分の現金請求で詰まりやすいです。
  • ③ きょうだい間の“負担差”:介護・通院付き添い・福祉手続き・見守り等。負担差が大きいほど「理由の説明」が必須になります。

ミニ結論:遺言の作り直しは、「遺留分(最低限)」+「現金の出し方」+「理由の共有」が揃うと、グッと揉めにくくなります。

1. 解決事例:不公平感が爆発→遺留分も踏まえて遺言を作り直した

ここからは現場でよくある流れを、個人が特定されない形に調整した再現事例です。

家族の状況(よくある構図)

  • 親:父(70代)/母は数年前に他界
  • 子ども:長女(近居で実務を担う)+長男(遠方、支援は限定的)+次男(知的障害、グループホーム利用)
  • 財産:自宅不動産+預金(多くはない)+保険(見直し不足)

揉めたきっかけ

父が以前作った遺言は「次男(障害のある子)に多く残したい」という思いが強く、
長女に“支援の実務”を期待しつつ、長男にはほとんど配慮がない内容でした。
長男は「結局、負担は長女に集中する。自分には説明もない。自分だけ除外されたようで納得できない」と感情が噴き上がり、家族の空気が一気に悪化しました。

父が気づいた“現実”

  • 遺言で偏らせるほど、長男は遺留分(最低限)を請求する可能性が高い
  • しかも請求は現金。自宅中心の資産だと、支払いのために売却が必要になり、次男の住まい・支援が揺らぐ
  • 結果として「次男を守るための遺言」が、逆に次男の生活を不安定にするリスクがある

解決に向けてやったこと(ここがポイント)

  1. 家族会議:父が主語で「次男の生活」「長女の負担」「長男の納得」を整理して言語化
  2. 遺留分の安全域を先に計算し、長男の最低ラインを確保
  3. 現金原資の確保:生命保険を見直し、長男への“最低ライン”を保険で埋める設計に
  4. 遺言の作り直し:不動産は長女(支援の実務担当)へ、次男の生活費は別枠で確保、長男は遺留分を下回らない形で配慮
  5. 付言事項:なぜこの分け方にしたか、父の言葉で丁寧に残した(これが効く)

結果、長男は「最低限が担保され、説明も受けた」ことで感情が落ち着き、長女も「負担が見える化された」ことで安心。
何より、次男の生活費が“現金請求で吹き飛ぶ”リスクが下がり、家族全体の安全度が上がりました。

2. なぜ揉める?「不公平感」の正体(お金より感情が先)

きょうだい間の揉め事は、法律の話に見えて、実は過去の積み重ねの感情が主役になりがちです。 「遺言を書けば終わり」と思うほど、意外なところで火がつきます。

不公平感が爆発しやすい“3つの火種”

  • 火種①:支援・介護・手続きの負担が偏っている(でも言語化されていない)
  • 火種②:生前贈与・援助(学費、住宅資金、同居支援など)が“見えない”まま残っている
  • 火種③:親の説明不足。「誰を大事にしていたか」という誤解が生まれる

実務のコツ
取り分を整える前に、「理由」を整える
そのための道具が、家族会議(議事録・メモ)+付言事項です。法律で“感情”は解決できませんが、言葉で火種を小さくできます。

3. 遺留分の超基本:誰が、どれくらい、いつまで請求できる?

3-1. 遺留分がある人/ない人(まずここ)

区分 遺留分 ひとこと
配偶者 あり 原則、最低限の取り分が保障
子(代襲含む) あり 今回の「きょうだい=子ども同士」はここ
親(直系尊属) あり 子がいない場合などに登場
被相続人の兄弟姉妹 なし 相続人になっても“最低限保障”はない

3-2. どれくらい?(計算は“ざっくり”でOK)

遺留分は細かい計算ルールがありますが、遺言を作り直す場面では、まず安全域(下回ると揉めやすいライン)が分かれば十分です。

超ざっくり計算(安全域の考え方)

① まず遺留分の“全体枠”を決める
・原則:遺産全体の 1/2
・例外(相続人が直系尊属のみ):遺産全体の 1/3

② 次に、その枠を法定相続分で割り振る(配偶者・子の割合など)

※正確な算定には評価(不動産評価・名義預金・生前贈与の扱い等)が必要です。ここでは“揉めない設計”のための入口として扱います。

相続人 遺留分の全体枠 1人あたりの目安(安全域)
A 子2人(配偶者なし) 1/2 各 1/4
B 配偶者+子2人 1/2 配偶者 1/4 / 子各 1/8
C 配偶者+子1人 1/2 配偶者 1/4 / 子 1/4
D 親のみ(子なし・配偶者なし) 1/3 親が複数なら法定相続分で按分

3-3. いつまで請求できる?(期限の話は超重要)

遺留分は「いつでも言える」わけではありません。けれど実務では、相続直後の1年に揉めることが多いので、遺言作り直しではここも意識します。

期限のイメージ

  • 原則:相続開始+侵害を知った時から1年
  • 最終ライン:相続開始から10年

※細かな「知った時」の判断や、中断・催告などの扱いは個別事情で変わります。揉めそうなら早めに専門家へ。

3-4. 大事な変更点:いまは“現金で請求”が基本

以前の制度では「不動産の持ち分が戻る」ような場面がありましたが、現在は原則として遺留分は“金銭(現金)で精算する請求”です。
つまり、遺言で不動産を1人に集中させるほど、他の相続人は「現金を払って」と言いやすくなり、現金不足だと売却・借入で詰まる——これが実務の怖いところです。

4. “揉めない遺言”の設計図:遺留分を織り込む5パターン

ここからが本題です。遺留分を無視した遺言は、うまくいけば通りますが、揉めた瞬間に“現金請求の地雷”になります。 逆に言えば、遺留分を織り込むだけで揉める確率は大きく下がります。

パターン1:最初から“最低ライン”を遺言で確保する

考え方:遺留分を下回らない範囲で、優先したい人(支援者/障害のある子など)へ多めに配分する。
向いている:預金が一定あり、分けやすい家庭。
弱点:財産評価がズレると、意図せず遺留分割れすることがある。

パターン2:生命保険で“遺留分の穴”を埋める(現金原資の王道)

考え方:不動産は支援の実務担当へ、遺留分相当は保険金で別の子へ、のように現金を外だしする。
向いている:不動産中心で、遺留分の現金請求が怖い家庭。
弱点:保険設計(受取人・金額・保険料)が必要。税金も含めた確認が要る。

パターン3:不動産は1人へ、代わりに“代償金(現金)”を払う設計

「家は売りたくない」「同居している子に残したい」というときに使われます。
遺言で不動産を承継させる代わりに、他の相続人へ代償金(現金)を支払う筋道をつけるイメージです。

注意:代償金は“払える現金”がないと絵に描いた餅になります。
ここでパターン2(保険)や、売却方針(いつ・誰が・いくらを目安に)をセットにすると現実的です。

パターン4:付言事項で「理由」を残し、家族会議で先に共有する

法律上の取り分が整っていても、感情が荒れると請求・紛争に向かいます。
だから、遺言には“配分の理由”を残すのが効きます(付言事項)。さらに、生前に家族会議で共有できると強いです。

付言事項に入れると効く言葉(例)

  • 障害のある子の生活費・住まい費を守る必要があること
  • 支援の実務を担ってきた(担っていく)きょうだいへの配慮
  • 他のきょうだいにも最低限の取り分を確保していること(遺留分配慮)
  • 「仲良く」ではなく「こう進めてほしい」という具体的な希望

パターン5:障害のある子の生活設計を“遺言+仕組み”で補強する

遺言は「渡す」には強いですが、「受け取った後の毎月支払い」までは自動では守れないことがあります。
そのため、障害のある子の生活費が心配な場合は、家族信託や、遺言に信託条項を入れる設計(いわゆる遺言による信託)など、“運用を回す仕組み”を検討すると安心度が上がります。

ここは誤解しないでください
信託は万能ではありません。受託者の適任監督(見える化)がないと、別の揉め方になります。
ただし「毎月の支払い」や「現金請求に備える原資づくり」には非常に相性が良い場面があります。

5. 手続きの流れ:誰が・いつ・どこで・何を・どの書類で

「遺言を作り直す」と決めたら、現場ではこの順番が一番スムーズです(迷子になりにくい)。

5-1. 生前(作り直し)の流れ

  1. STEP 1家族会議(30〜60分)不公平感の火種(負担差・過去の援助・将来の責任)を言語化し、論点をメモにする
  2. STEP 2財産の棚卸し:預金・不動産・保険・負債・生前贈与の有無を一覧化(“現金不足リスク”を見える化)
  3. STEP 3遺留分の安全域を確認:家族構成に応じて「最低ライン」を把握し、割れない配分を検討
  4. STEP 4現金原資の手当て:保険見直し、預金の残し方、売却方針(最悪のときの出口)を決める
  5. STEP 5遺言案の作成:誰に・何を・どの順番で。遺言執行者も検討(手続きを回す人)
  6. STEP 6公正証書遺言で確定:公証役場で作成し、原本保管。家族に「作った事実」と保管情報を共有

5-2. “揉めやすい家庭”ほど公正証書がおすすめな理由

きょうだいの不公平感が強い家庭ほど、方式不備・解釈違いで揉めると、もったいない争いになります。
公正証書遺言は、形式ミスが起きにくく、後から「本当に本人の意思?」という争点になりにくいので、実務上の安心材料になります。

6. チェックリスト:家族会議/遺言作成/遺留分対策

6-1. 家族会議で決めること(これが決まると一気に進む)

  • 誰が何を担ってきたか(手続き、通院、福祉、見守り)を事実として整理
  • 障害のある子の生活費:住まい費・医療費・日用品・余暇の“最低ライン”
  • きょうだいの将来負担:誰が主担当?遠方の人は何を担う?(無理のない分担)
  • 遺留分に配慮する方針:下回らない/保険で埋める/代償金にする等
  • “理由”をどう残すか:付言事項に入れる言葉(父・母の言葉で)

6-2. 公正証書遺言でよく必要になる資料

分類 主な資料 目的
本人 本人確認書類、印鑑(実印が多い)、戸籍・住民票等(ケースで変動) 本人の同一性確認
相続人 相続人関係が分かる戸籍、続柄情報 相続関係の確認
不動産 登記事項証明書、固定資産評価資料など 物件特定・評価の入口
預金等 通帳コピー、残高メモ、口座一覧 財産の特定・配分設計
保険 保険証券、受取人・保険金額の情報 現金原資・配慮設計

6-3. 遺留分対策チェック(最低限ここだけ)

  • 遺留分がある人を特定:配偶者・子・親(直系尊属)
  • 現金で払えるか:不動産中心なら、保険・預金残し・売却方針をセットに
  • 生前贈与の把握:学費・住宅・援助など“見えない不公平”を棚卸し
  • 付言事項の準備:「なぜこの分け方か」を短く・具体的に
  • 執行者の指定:手続きを回す担当を決める(揉める家庭ほど重要)

7. 注意点:現金不足、認知症リスク、障害のある子の生活設計

7-1. “現金不足”が一番の事故ポイント

遺留分は原則として現金請求です。
不動産を1人に集める遺言ほど、他の相続人は「現金で」と言いやすくなります。
現金がない=売却 or 借入になり、障害のある子の住まい・支援の安定が揺らぐことがあります。

だからこそ、遺言の作り直しでは、配分そのものより先に「現金の出口」を作っておくのが安全です(保険・預金の残し方・売却方針)。

7-2. 判断能力が不安なら、早めに“整った形”で

高齢になると、認知機能の低下や体調変動で「意思能力」の争いが起きることがあります。
きょうだいの関係が悪いほど、遺言の有効性が争点になりやすいので、早めに公正証書で整えることが実務上の予防になります。

7-3. 障害のある子がいる家庭の“追加視点”

遺言を作り直すときに、必ず入れてほしい視点

  • 生活費の見える化:月いくら必要か(住まい費・医療費・日用品・余暇)
  • 支援者の体制:主担当は誰か。遠方のきょうだいの関与はどこまでか
  • お金の“管理者”:遺言で渡すだけで足りるか/管理の仕組み(信託等)が必要か

「公平に半分ずつ」よりも、「生活が崩れない」+「きょうだいが納得できる」落としどころを作る方が、結果的に家族全体が守られます。

8. よくある失敗例(これを避けるだけで8割防げる)

  • 失敗①:遺留分を無視して偏らせた → 相続後に現金請求が来て、売却・借入で揉めた
  • 失敗②:不動産に偏っているのに、現金原資(保険・預金残し・売却方針)がない
  • 失敗③:生前贈与・援助の棚卸しがなく、「昔から不公平だった」が爆発
  • 失敗④:付言事項がなく、受け取らなかった側が「愛されていなかった」と解釈してしまう
  • 失敗⑤:遺言が曖昧/執行者がいない → 解釈や段取りで揉める

失敗を防ぐ合言葉
「遺留分の安全域」+「現金の出口」+「理由の言葉」
これが揃うと、“請求して戦う”より“納得して進む”方向に寄りやすくなります。

9. Q&A(親御さんが引っかかるポイント)

Q1. 「平等に分ける」方が揉めませんか?

平等が正解の家庭もあります。ただ、障害のある子の生活費や支援負担の偏りがある家庭では、形式的に半分ずつが逆に揉めることもあります。
重要なのは“生活が崩れない配分”と、“理由の説明”です。遺留分の安全域を守りつつ、家族が納得できる設計を目指すのが現実的です。

Q2. 遺留分は「必ず請求される」ものですか?

必ずではありません。ただ、感情が荒れている説明がない取り分が極端だと請求されやすくなります。
だから遺言を作り直すときは、「請求されても詰まらない設計」にしておくのが安全です。

Q3. 不動産を1人に残したいのですが、どうしたらいい?

可能です。ただし、遺留分は原則として現金請求なので、他の相続人が最低限の取り分を求めたときに現金で払える道筋が必要です。
保険で埋める、預金を残す、売却方針を決める、などをセットにすると実務で止まりにくいです。

Q4. 「障害のある子に多めに残す」と言うと、他の子が怒ります…

怒りが出る背景は、「将来の負担が見えない」「自分が軽視された気がする」「説明がない」など、感情の要素が大きいことが多いです。
家族会議で、生活費の必要額支援の役割分担を見える化し、遺留分の安全域も確保した上で、付言事項で理由を残すと、衝突が小さくなりやすいです。

Q5. 何から始めればいいか分かりません

まずは「財産の形(現金・不動産)」と「相続人(配偶者・子・親)」の確認です。次に、遺留分の安全域をざっくり把握し、現金原資(保険・預金)を検討します。
その上で家族会議(短くてOK)→遺言案→公正証書、がスムーズです。

10. 今日からの行動プラン(30分→1週間→1か月)

30分(今日)

  • 相続人の候補を書き出す(配偶者・子・親・兄弟姉妹)
  • 財産の形をメモ(不動産が多い/現金が多い)
  • きょうだいの負担差(支援・手続き)を箇条書き

1週間

  • 預金・保険・不動産の資料を集め、一覧にする
  • 遺留分の安全域を“ざっくり”確認(本文の表を参考)
  • 家族会議の段取りを決める(30〜60分、目的は「論点整理」)

1か月

  • 現金原資(保険見直し・預金残し・売却方針)を決める
  • 遺言案を作成し、付言事項を整える
  • 公正証書遺言で確定し、家族に「作った事実」を共有

“完璧な遺言”より、“揉めたときに詰まらない遺言”を先に作るのが実務のコツです。

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