障害のある子が相続した家が“負動産”に|売却・賃貸・名義整理で立て直した事例

親亡き後・解決事例(ケーススタディ)

障害のある子が相続した家が“負動産”に|売却・賃貸・名義整理で立て直した事例

親が亡くなったあと、障害のあるお子さまが「家(不動産)」を相続したものの、固定資産税・修繕・空き家リスクが重くのしかかり、 生活を守るはずの相続が“負担だけ増える状態(負動産)”になることがあります。

結論(最初にここだけ)

  • 放置がいちばん高くつくため、まず「当座の管理」と「名義の整理(相続登記)」を同時に進めます。
  • 次に、家族会議で出口(売却/賃貸/保有)を決め、実行できる体制(署名者・代理権・支払い口)を整えます。
  • 障害の種類そのものではなく、“意思能力(理解して判断できるか)”によって手続きが大きく変わります。

※本記事は一般的な情報です。個別事情により最適解は変わります(特に「売却」「後見」「福祉給付」)。


「負動産」になりやすい3つの原因

  • 原因1 名義(権利)が宙ぶらりん
    「誰の家か」が未確定のままだと、売却も賃貸も進まず、固定資産税や管理費だけが出ていきます。
  • 原因2 署名・契約を誰がするのか決まっていない
    障害のある相続人がいる場合、同意が有効か(理解して判断できているか)が重要です。判断が曖昧なまま進めると、後で「無効」「やり直し」になり得ます。
  • 原因3 家族の感情(不公平感)で結論が先延ばし
    「売りたくない」「思い出がある」「自分だけ損したくない」が絡むと、決めるほど傷つく気がして止まります。結果として、家が傷み、費用が増えます。

ポイントは、感情を否定しないまま「意思決定の手順」を先に作ることです(後半の家族会議の進め方で具体化します)。

今回の事例|相続した家が空き家化し、施設費と両立できなくなった

登場人物(モデルケース)

  • 被相続人:母(急逝)
  • 相続人:長男(主導役)/次男(遠方)/障害のある子(本人・同居歴あり、現在は支援付き住まい)
  • 遺産:実家(築古の戸建て)+少額の預金

相続発生後、預金は凍結され、当面の支払いは長男が立替。実家は空き家になり、 固定資産税・火災保険・草木の管理が発生しました。 さらに、近隣から「雑草が伸びている」「ポストが溢れている」と連絡が入り、精神的負担も増大。

つまずきポイント

  • 「障害のある相続人の同意」をどう扱うかが曖昧で、遺産分割協議書の作成が止まった
  • 次男は「売却したい」、長男は「いったん保有したい」、意見が割れた
  • 結果として、何も決められないまま空き家コストだけが積み上がった

そこで本件では、いきなり「売る/売らない」を決めるのではなく、①緊急対応(管理・支払いの可視化)→②名義整理→③家族会議で方針決定→④出口実行の順に切り替えました。

最初の7日でやることチェックリスト(緊急対応)

「決める前にやる」こと(放置コストを止める)

  • 現況確認:空き家か/誰かが出入りしているか/雨漏り・破損はないか
  • 安全・防犯:鍵の管理、窓・勝手口、郵便物、近隣への連絡先メモ
  • 支払いの棚卸し:固定資産税、火災保険、電気・水道、管理委託費、修繕見込み
  • 書類の確保:登記簿(全部事項証明書)、固定資産税納税通知書、権利証(登記識別情報)
  • 写真で記録:外観・室内・損耗箇所(後の売却・賃貸・保険・家族説明で効きます)
  • 当座の管理手配:草木、換気、通水、見回り(業者・親族・管理会社)

※「家の中の貴重品・通帳・印鑑」探索は、相続人間の誤解が起きやすいので、可能なら複数人で実施し、メモと写真を残します。

手続きの全体像(誰が・いつ・何を・どの順番で)

STEP やること 担当(目安) 主な書類
1 相続人・遺言の確認、戸籍収集 長男(まとめ役) 戸籍一式、住民票除票、遺言(あれば)
2 不動産の現況把握(管理・コスト・売却可能性の一次判断) 相続人+不動産会社 登記簿、固定資産税通知、写真
3 意思能力の確認(障害のある相続人の同意の扱いを決める) 家族+専門家 医師の所見・診断書(必要に応じて)
4 家族会議(議題:出口戦略・費用負担・担当・期限) 全員(司会を1人決める) 議事メモ、見積、査定
5 遺産分割協議書の作成(または遺言執行) 専門家+相続人 協議書、印鑑証明、本人確認
6 相続登記(名義変更) 司法書士等 戸籍、協議書、評価証明 等
7 出口実行(売却/賃貸/保有整理) 体制により決定 媒介契約、売買契約、賃貸契約、許可(必要なら)

この事例で実際に効いた「家族会議の型」

  • 会議のゴールを「出口を決める」ではなく「出口を決める期限と役割を決める」に設定
  • 先に数字(毎月・毎年のコスト)を出し、感情の議論を“数字の上に”置く
  • 障害のある相続人の参加は、本人の負担にならない形(短時間・支援者同席・説明資料)に調整

「署名できる?できない?」が曖昧なときの考え方

  • 障害があること自体で相続人から外れることはありません。問題は“その時点で内容を理解し、判断できるか”です。
  • 判断が微妙な場合は、後で無効リスクが出ないよう、説明の記録・医師の所見・専門家の同席など「説明した・理解した」を残す工夫をします。
  • 意思能力が足りない場合は、成年後見等の検討が必要になります(Q&Aで整理します)。

出口戦略①:売却で立て直す(向き・不向き/必要書類)

向いているケース

  • 空き家の維持が難しく、固定費を止めたい
  • 遠方で管理できない、近隣対応が負担
  • 修繕が高額、老朽化が進んでいる
  • 売却資金を、障害のある子の生活費(住居費・支援費)に回したい

注意が必要なケース

  • 障害のある相続人が「将来住む可能性がある家」
  • 相続人の間に強い対立がある(価格・売る売らない)
  • 成年後見を利用していて、居住用不動産の処分許可が必要になり得る

売却の準備(最短で動くために)

  • 不動産会社に査定依頼(複数社推奨)
  • 権利関係の確認(共有・抵当権・未登記増築など)
  • 残置物の整理(費用・立会い・形見分けルール)
  • 売却方針(価格・時期・費用負担)を家族会議で決定

必要書類のイメージ(実務で詰まりやすい箇所)

  • 登記簿(全部事項証明書)、固定資産税評価(市区町村)
  • 相続関係書類(戸籍一式、法定相続情報があると楽)
  • 遺産分割協議書(または遺言)+印鑑証明書
  • 本人確認書類
  • (成年後見の場合)後見登記事項証明書、家庭裁判所の許可(必要な場合)

お金の論点:売却益をどう“生活保障”に変えるか

  • 売却益を「誰の口座に」「何に」「どの頻度で」使うかを先に決めます。
  • 障害のある子の将来の支払い(住居費・支援費・医療)に充てるなら、遺言+信託(家族信託等)で“毎月の支払い”を仕組みにする設計も有効です。
  • 税務(譲渡所得)や福祉(資産要件)の影響があり得るため、売却前に専門家へ確認します。

知っておきたい:空き家を売るときの特例(代表例)

相続した「被相続人の居住用財産(空き家)」は、要件を満たすと譲渡所得から一定額を控除できる特例があります。
ただし要件が細かい(期間・建物の条件・利用状況など)ため、売却を決める前に“当てはまるか”を必ず確認してください。

※適用可否は個別に変わります(「相続人の数」などでも控除上限が変わる場合があります)。

出口戦略②:賃貸で回す(管理体制/注意点)

向いているケース

  • すぐ売るのは心理的に難しいが、空き家コストは止めたい
  • 立地がよく、家賃収入で維持費を相殺できる可能性がある
  • 将来、障害のある子の住まいとして戻す可能性がある

賃貸で一番大事なのは「管理者が誰か」を固定すること

  • 賃貸は、契約だけでなく「修繕」「クレーム」「更新」「退去精算」が続きます。
  • 相続人が複数なら、窓口を1人(または管理会社)に集約し、勝手な指示が飛ばないようにします。
  • 障害のある相続人が所有者になる場合、賃貸借契約の締結・解除が「居住用不動産の処分」に該当し得る場面もあるため、後見利用中は特に注意が必要です。

賃貸でよくある落とし穴

  • リフォーム費用をかけすぎて回収できない
  • 相続人の合意が曖昧で、更新・退去時に揉める
  • 家賃収入の入金口座と、障害のある子の生活費支出が混ざり、会計が不透明になる

出口戦略③:保有しつつ整理(共有回避/代償分割/将来の処分)

「いったん保有」でも、整理しないと負動産化します

  • 共有のままは、将来の売却・解体・建替えでほぼ揉めます。
  • 保有するなら、名義を1人に寄せる(代償分割など)か、将来の処分ルールまで決めておくのが実務的です。

本事例での整理

  • まず名義整理(相続登記)を進め、手続きの前提を確定
  • 次に「売却」か「賃貸」かで割れる前に、3か月だけ“暫定管理期間”を設定
  • その間に査定・修繕見積・福祉への影響確認を行い、期限日に再度家族会議で決定

名義整理(相続登記)の実務|期限・書類・落とし穴

超重要

相続登記(不動産の名義変更)は、一定の期限内に申請することが原則として求められ、正当な理由なく怠ると過料の対象となり得ます。
「売るか決めていないから登記しない」は、後で手続きを重くしやすい典型パターンです。

相続登記の前に“必ず”やること

  • 相続人の確定(戸籍)
  • 遺言の有無の確認
  • 不動産の特定(所在地・地番・家屋番号)
  • 遺産分割協議(遺言がなければ原則必要)

必要書類(実務で揃えやすい順)

  • 被相続人:出生から死亡までの戸籍一式、住民票除票
  • 相続人:戸籍、住民票、印鑑証明書
  • 不動産:固定資産評価証明書(または課税明細)、登記事項証明書
  • 遺産分割協議書(または遺言)
  • (代理が必要な場合)後見関係書類、委任状 等

戸籍提出の負担を減らすなら、法務局の「法定相続情報一覧図」を活用すると、金融機関や登記で同じ戸籍を何度も出す手間を減らせます。

落とし穴:登記が遅れると“出口”が先に詰まる

  • 売却の買主・仲介会社は、名義の確定を強く求めます(決済ができないため)。
  • 賃貸でも、契約主体・修繕責任・火災保険の名義などが曖昧になり、事故時に揉めます。
  • 結果として空き家期間が伸び、コストとリスクだけが増える──これが負動産化の典型ルートです。

よくある失敗7つ(やり直し・揉め・費用増の原因)

  1. 「後で決める」で空き家の管理を放置(近隣苦情・劣化・害獣・火災リスクが増える)
  2. 相続人の代表を決めず、連絡窓口がバラバラ(業者が動けない)
  3. 同意の有効性(意思能力)を軽視して協議を進め、後で無効リスクが出る
  4. 共有のままにして将来の売却・解体で揉める
  5. 売却益・家賃収入の入出金が混ざり、使途不明で疑心暗鬼になる
  6. 「思い出」だけで高額リフォームを決め、回収できない
  7. 福祉・税務の影響確認を後回しにし、あとで打ち手が狭まる

Q&A(後見が必要?売却できる?福祉への影響は?)

Q1. 障害があると、必ず成年後見が必要ですか?

必ずではありません。ポイントは「内容を理解して判断できるか(意思能力)」です。
①本人が説明を理解し、自分の意思を示せる/②手続きが比較的単純/③争いが少ない、なら後見なしで進むこともあります。
一方で、不動産の売却など重要な判断が必要で、同意の有効性に不安がある場合は、後見等の検討が現実的になります。

Q2. 成年後見を使っていると、家を売れませんか?

売れないわけではありませんが、居住用不動産の処分に該当する場合、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。
許可なく処分すると無効となり得るため、手続き設計(誰が何を申立てるか、必要資料)を先に整えるのが安全です。

Q3. 「本人は今住んでいない家」でも居住用不動産になりますか?

なる可能性があります。施設入所中で現在住んでいなくても、将来住む可能性や、入所前に住んでいた等の事情で居住用に含まれ得ます。
判断は個別事情によるため、後見利用中は特に「処分許可が必要か」を最初に確認すると、後戻りが減ります。

Q4. 相続登記は「売ると決めてから」でいいですか?

実務上はおすすめしません。売却・賃貸のどちらでも、名義が宙ぶらりんだと話が進まず、空き家期間が伸びて負担が増えます。
まずは「前提を固める(相続人確定・協議・登記)」を優先し、出口戦略は並行して詰めるのがスムーズです。

Q5. 売却したお金を、障害のある子の生活費に回したい。どう仕組みにすればいい?

「口座に入れて終わり」だと、使途や管理が曖昧になり揉めやすいです。
生活費を安定させたいなら、毎月の支払いルールを契約で固定する方法(例:家族信託、遺言での設計、支援者を含む家族会議)を検討すると、本人も家族も安心しやすくなります。

Q6. 不動産を持つと、福祉や給付に影響しますか?

制度によって取り扱いが異なります。資産・収入の状況が影響しやすい制度もあるため、「どの制度を利用しているか」から確認が必要です。
本人の暮らし(住居、就労、支援体制)とあわせて、福祉窓口・相談支援専門員・専門家で情報を揃えたうえで判断するのが安全です。

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「売るべきか迷っている」「同意の扱いが不安」「名義変更が止まっている」など、状況を整理するだけでも前に進みます。
まずは、今の家の状態(空き家/居住中)と、相続人の状況(人数・意思能力の不安の有無)をメモしてお電話ください。

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